先週のJ Club

先週の木曜日は連続して研修医のI先生が脳梗塞急性期シリーズです。

大友英一, 沓沢尚之, 小暮久也. 脳血栓症急性期におけるOKY-046の臨床的有用性. プラセボを対象とした多施設二重盲検試験. 臨床医薬1991;7:353-388

このスタディは脳卒中ガイドライン2004にて、脳梗塞急性期の抗血小板療法としてのオザグレルナトリウム使用の唯一の根拠となっております。
この雑誌もオンラインでオープンアクセスとなっていないので、入手に一苦労しました。というか、お金を出して個人的に買ったのですが、、、大学の図書館にはたまたま置いていなかったのです。

結語の一部を抜粋します。
「7日後,14日後,投与時最終,28日後の全般改善度には3群間に有意差はなかった。概括安全度についても3群間に有意差はなく,有用度にも3群間で有意差はなかった」
「個々の臨床症状については,投与時最終の四肢脱力・俗怠感の改善度はH群がP群に比し有意に優れていた。また,患側の握力,患側上肢運動麻痺の改善度でH群がP群に比し有意に優れていた」
最後に、、
「以上より,OKY-046は脳血栓症の急性期の麻痺症状の改善に効果を発揮し得るものと考えられ」
と結んでおります。

このスタディは前の週にとりあげたアルガトロバンの試験と酷似していて、Primary endpointに全般改善度、概括安全度、有用度という非常に曖昧なものを用いています。
Journal clubでも議論になりましたが、ながーい論文のどこをどう探しても、この全般改善度のスコアリング法が具体的に記載されていません。
あとは、前の週に挙げたような問題点がすべて共通して存在しています。
このスタディの更に問題な点は、ものすごい数の臨床症状をSecondary endpointとして評価し、有意水準5%としてその中から統計学的有意差が出たものだけをピックアップして結論にする、という多重検定にあります。これはひどい、、、

オザグレルナトリウム(キサンボン)はこのスタディのみがガイドラインの根拠になっていますので、相当厳しいですね。製薬企業に対する雇用創出だ、とでも思わなければ、生食だけ投与してても同じような気がします。

小児救急電話相談

コンビニ受診が声高に叫ばれています。
確かに医師の立場でみると、日々の診療で入院患者や重症者を診ているので、これくらいの症状で夜中に、、、と思う事はあります。
しかし素人の患者、特に核家族化により若い両親だけで子供を診ているような家庭では悪意が無くとも心配で医療機関にかけこむ事が多いでしょう。
今は新聞紙面で医療関係の記事を目にする時必ず「コンビニ受診」という言葉が挿し入れられているのに気づきます。シンプルなフレーズで分かりやすいのでしょう。しかし過度な受診抑制につながらないか心配でもあります。

宮崎県以外の多くの県では常識だと思いますが、夜間帯に子供の症状が心配で受診すべきかどうか迷う際、相談する電話窓口があります。
小児救急電話相談

#8000を押すと、各々の都道府県窓口につながり、担当医師または看護師が相談に応じるというものです。
この事業により受診抑制に成功しているというデータは日医総研からも出ています。

小児科医を疲弊させず、ひいては小児医療を守る為には効果のはっきりしている同事業ですが、宮崎県では殆ど実施されていません。
宮崎県で相談を受け付けている時間は土日休日の夜7時〜11時のみ。
しかも携帯電話からはつながりません。

この事業は救急医療の充実している沖縄県では実施されていません。だって沖縄県には24時間対応可能なERが存在し、そこに電話すれば実際に医師や看護師が相談にのります。私も相談を受けていました。

この事業を平日の夜間帯に実施していない都道府県は沖縄を除く46都道府県のうち、青森県と宮崎県のみです。
携帯電話からかけることのできないのは46都道府県のうち宮崎県のみ。
隣の鹿児島県は平日も休日も夜間帯の受付、もちろん携帯からも可。
福岡、長崎、大分では翌朝まで電話受付を行っています。

だいたい乳幼児を抱えて困っている若い世代は家に固定電話は無く、携帯電話のみ現状です。携帯からもかけられないというと、近所に公衆電話でも無ければほぼアクセス不能な電話相談でしょう。


なぜ宮崎県の取り組みはこれほどまで遅れているのか。
この事業は厚生労働省の呼びかけで、県の医療薬務課が担当になっています。

最近民主党の事業仕分けが話題になっておりますが、宮崎県では民主党に先駆けて東国原執行部が平成19年に事業仕分けを行っております。
その仕分け報告書の中で、小児救急電話相談事業を発見しました。結果、県でやるべき事業だが改善すべきが7人中3人、現状のままが7人中4人でした。850万の予算、そのうち一般財源430万を費やしています。
現状のまま県の事業として行っていくという委員の中では、拡充の必要がある、PRしていく必要がある、という意見の一方、改善が必要という委員の中には医師会にかなり負担してもらうべき、とかアウトソーシングを検討すべきという意見が散見されます。

どうして医師会に負担してもらうべきという意見になるのかよく分かりませんが、大きな問題としてアウトソーシングするにしても民間の受け手がいないようです。
しかし全国的にみても宮崎県のこの現状はかなり寒いです。県は本気で取り組んでみてはどうでしょうか。

医学生

医学生と絡むのはわりかし好きな方なので、実習に来る学生とはいろんな話をします。
この週末は宮崎大学で清花祭という学園祭があり、木花キャンパスと清武キャンパス(医学部)で催し物をやっていましたが、どうしても清武キャンパスは離れという地理的条件もあって寂しいですね。

私が東大にいた頃は、医学部4年生が東大の学園祭の中で医学部企画を毎年担当していて、社会的関心の高いテーマを調査、発表するのが常でした。
私の学年では「科学的思考のススメ」といって、健康食品・医療機器の科学的根拠を調査したり、BSE問題の科学的事実を調査、フォーラムを開いたり、医療過誤問題について取り組み、結論・意見を発表というような事をしておりました。
代表がいて、私は雑用の実行委員長をしながらBSE問題に取りくんでおりましたが、その時に参考にしたテキストが以下の池田正行先生の本です。

食のリスクを問いなおす―BSEパニックの真実 (ちくま新書)食のリスクを問いなおす―BSEパニックの真実 (ちくま新書)
(2002/08)
池田 正行

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結局池田先生は新潟からはるばるフォーラムに参加していただき、とてもお世話になりました。
一方、医療過誤問題は読売に取り組みが取り上げられた事もあって2日目全体を通して医学部大講堂が立ち見で埋め尽くされていました。

その後、5年生になると鉄門倶楽部という同窓会組織の運営委員を学生がやることになっていて、医学部では日本一の巨大な同窓会組織の運営、外病院への学生実習の斡旋、学生サークルへの同窓会組織予算配分、旅行企画、毎月発行の同窓会誌の編集などを行っておりました。
同窓会誌の編集は中でもコアな活動で、十数人の学生編集委員が毎月12面前後の鉄門だよりを発行しており、相当大変な作業です。編集理念は定まっていないので、自分達の興味のある事をつれづれと書いてみたり、東大医学部の翼賛機関誌みたいな事を書いていたり、ただ偉い人に会ってみたり、という風に自由そのものです。同窓会も相当寛容です。この活動を通して学生は社会との接点を深化させていきます。

私の同級生はその後も医療政策関係のNPOに携わったり、医療政策人材養成講座の受講生になってみたり、と非常に幅広い活動を展開しておりました。私は臨床試験の勉強の傍らUSMLEに取り組んだり結婚の準備などをしていました。


宮崎大学の学生も部活ばかりせずに、時間はありあまっているのだから社会性のある活動に取り組めば?と何人かに声をかけるのですが、どうも煮え切らない返事しか帰って来ません。
よくある回答例が、僕らにはそこまでの能力も高いモチベーションもありませんし、試験も忙しい、というのです。

取り組むか取り組まないかは決して個人の能力とは関係ありませんし、試験で忙しいはずもありません。医学部で試験で忙しいという人は、単なる嘘つきか、休みも授業の後も家で机に向かって勉強し続けていてようやく試験に受かるといった希少人種でしょう。
結局、学部の試験や国家試験以外の、大学の外で起きている事象には想像力の及ばないのか、もしくはあえて関知しないと決め込んでいるだと私は思っています。

確かに宮崎大学は地元出身者が長年1割にも満たない時代が続き、今の5年生まではそうでしょう。地域の社会問題には関知しようと思わないのかもしれません。しかし、医師免許という紙切れ一枚とる為に東京やら大阪やら都市部から6年もの月日を費やしに来ているというのも次元の低い話だと思います。臨床医として身を立てていくつもりならば、社会とは接点を持たざるを得ませんし、患者さんの社会的背景にまで想像を及ばせない医師はアウトカムを出せないでしょう。

ちょっと厳しい事をいいましたが、もっとやる気のある学生出てこいよ、といいたいのです。
最近、がっかりさせられる事の多いものですから。

仕分け

主計局のシナリオに沿った仕分け作業が民主党議員によって行われました。
皆知っている事だとは思いますが、仕分け人にこれほど多岐にわたる分野の知識、分析力、評価能力などあるはずが無いので、主計局と幹事長の主張をそのまま通しているだけでしょう。
構図も仕分け人という正義の味方と、各事業の説明に立つ官僚、天下り職員という悪の枢軸という対立図式で、民主党は小泉政権の手法を学んでいます。メディアにも大受けです。

行政評価は専門家ですら難しいのに、テレビを見ているだけの国民に各事業の公益性とコスト効率のバランスなど判断できるはずがありません。無駄かどうか分かるはずが無いのです。いったい誰が分かっているのでしょう。本当の所は誰にも分からない、というのだったら仕分けは民主党によるタダのパフォーマンスです。仕分けの結果、おびただしい規模の公益性が失われたり、景気を後退させてしまったとしても誰にも分かりません。誰が仕分けのアウトカムを評価するのでしょう?

少なくとも、メディアには仕分け人の名簿、リストを大きく報道してもらいたいです。

最近見ていませんでしたが、伊関友伸先生のブログで民主党の医療政策に対する姿勢が評価されています。新書も待ち遠しいです。

東国原知事

宮崎公立大学の有馬晋作先生の著書を読みました。

東国原知事は宮崎をどう変えたか―マニフェスト型行政の挑戦東国原知事は宮崎をどう変えたか―マニフェスト型行政の挑戦
(2009/09)
有馬 晋作

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東国原執行部がこの二年間で何をしてきたかはだいたい分かりました。
ただ、事実関係の紹介や現状分析が多く、第三者の行政学研究者としての評価、価値判断に乏しい印象があります。
後半に各県の行政評価、早稲田大学マニフェスト研究所、日本青年会議所によるマニフェスト評価が紹介されていますが、有馬先生独自の行政評価、もしくはマニフェスト評価を開陳して欲しかったです。

著書の中で、行政評価の際はアウトプット指標よりもアウトカム指標を設定する方が良いと指摘しています。
アウトプット指標とは、「施策や事業などの行政活動をどれだけ実施したかというもの」で、アウトカムとは「施策や事業などの行政活動の実施によってもたらされた効果を総称したもの」です。

医療でいえば、アウトプットは病院毎のQuality Indicatorとして挙げられるような、肺炎診療における血液培養採取率、早期の抗生剤の投与割合、院内感染対策の実施状況などでしょうか。
アウトカムはいつもJournal Clubで議論している、患者の死亡率、生活の質の改善などでしょう。

当然、プロは結果を求められるわけで、いくら頑張っていてアウトプットを伸ばしています、と釈明してもアウトカムが伴わなければ無意味です。
このアウトカムの評価を行政評価、マニフェスト評価でもばしばし実施して欲しいものです。


そして、この本を通してやはり医療問題に対する東国原執行部、そして行政学研究者の関心の低さを改めて感じます。
250ページにも及ぶ内容の中で、医師不足問題に触れられているのはわずか2,3ページです。

県政におけるあらゆるイシューの中でも、唯一医師不足問題は県北や県南で自然発生的に有志の県民による団体が立ち上がり、署名活動などが展開されてきました。経済活性化、観光産業の再興も重要ですが、医療は県民の生命に直結するからこそこれらの運動に即つながります。
私は医療問題は県政最大のイシューだと考えていますが、政治や行政は単に関心が薄いのか、票につながらないので無視を決め込んでいるのか、よく分かりません。
少なくともここ2年の医療問題における行政評価は0点、もしくはマイナス点でしょう。
プロフィール

Author:清山 知憲
東京大学を卒業後、沖縄県立中部病院、ニューヨークのBeth Israel Medical Centerでの研修を経て宮崎へ帰還しました。
医師不足問題、臨床研究、総合内科、感染症に興味を持ちます。
ご意見やお問い合わせはこちらまで。
g060032@gmail.com

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